日刊工業新聞記事より 1998.6.1

産業トレンド−自分を磨く

−−−修行とはどんな内容なのですか

「講に参加して霊山を歩く。昨年の夏に訪れたのは奈良県の大峰山。まず洞川
という修験者専用の旅館街に一泊するのだが、ここは名水で有名なところ。豆腐
がおいUいので夜はこれで一杯やってしまった。修行に来てこんなことではいけ
ないのだが。
翌早朝、近所の寺にある池で般若心経を唱えなが身体体を清める。本来は一人ず
つ滝に打たれるところだが、人数が多いので、池で一度に済ませるらしい。その後、
登山を開始するわけだが、途中出会う地蔵や薬師如来にお経を唱えながらゆつくり
進む。昼ごろには最終目的地の山頂にある龍泉寺に到着し、修行は終了する。」

−−−かなりバートなのですか。

「山自体はそれほど高低差はないし、参加者も年配者が多いので行程は楽だが、
初めて参加する『新客』には一般の修験者とは別に設けられているコ‐スがある。
ここでは足を踏み外したらまっさかさまに転落しそうながけっぷちなど危険な場
所をいくつか克服しなけれぱならない。怖くて身も縮む思いだ。こうした恐怖を
体験することで一度鹿死んだものとみなし、再ぴ母胎の象徴である山で再び生まれ
変わることが修行らしい」

−−−修行後は人生観など変わるのですか。

「いや全然。四十年以上生きてきた自分というものは、そう簡単に変えられる
ものではない。それにこうした修行は教典を読んだりするのとは異なり、
非常に原始的な仏教に基づいている。体系化されていない宗教ゆえ、自然の一部
に身を置いているような感覚だ」

−−−修行に行かれるようになったきっつかけは。

「京都にいた大学時代から座禅を組んだり、現在でも鎌倉の寺を訪ねたり、
仏教的なものに興味はあったが、毎年、大峰山を訪れているという知り合いに
連れていってもらつたのがきっかけだ。仕事に追われる日常を一瞬でも離れ、
自然の中でゆったり過ごすのは非常に有意義。しかし悲しいかな、山に入
る前に切っておいた携帯電話を修行が終わるや杏やオンにしてしまうのは
忙しい現代人の性(さが)だ」

−−−今年も行かれるのですか。

「そのつもりだ。参加者にはなぜか中小企業の経営者が多い。皆それぞれに
悩みを持って参加しでいるのかもしれないが、お互い名前程度しか尋ねない。
同じ場所で修行しているということが唯の共通点というのも不思議な気がする」